自己株式(1)

no-ko

2006年10月04日 07:44

会社法講義26日目

本日は、自己株式についてです。

●自己株式の意義
「自己株式」とは、株式会社が有する自己の株式をいいます(会113‐Ⅳ)。いままでは、会社が自ら自社株を取得することは、出資の払戻しとなって会社の財産を失わせる弊害や株価操縦、取締役会の会社支配に利用される恐れがあるため、原則禁止とされていました。

しかし経済界の強い要望に応えるかたちで、会社法は自己株式の取得を大幅に許容しました。しかし、子会社による親会社株の取得はなお原則禁止されます(会135)。

●自己株式が取得できる場合
自己株式が取得できるのは次の場合です(会155)。
(1)取得条項付株式を取得する場合。
(2)譲渡制限株式の譲渡不承認の場合に会社が買取請求(会138‐①ハ、②ハ)する場合。
(3)株主との合意による取得の株主総会決議(会156)があった場合。
(4)取得請求権付株式の株主から会社へ取得請求(会166‐Ⅰ)があった場合。
(5)全部取得条項付種類株式の取得の株主総会の特別決議(会171‐Ⅰ)があった場合。
(6)相続人等に対する譲渡制限株式を会社が売渡請求(会176‐Ⅰ)をした場合。
(7)単元未満株の買取請求(会192‐Ⅰ)があった場合。
(8)所在不明株主の株式の全部または一部を買取る場合(会197‐Ⅲ)。
(9)端数株式の買取りに関する事項(会234‐Ⅳ)を定めた場合。
(10)他の会社(外国会社を含む)の事業の全部を譲受ける場合において、当該他の会社が有する当該株式会社の株式を取得する場合。
(11)合併後消滅する会社からその会社の株式を承継する場合。
(12)吸収分割をする会社から、その会社の株式を承継する場合。
(13)その他法務省令で定める場合(規則27条参照)。


●株主との合意による取得
◆すべての株主(種類株主)に申込機会を与えて行う取得
会社が株主との合意により株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の普通決議で次に掲げる事項を定めなければなりません(会156‐Ⅰ)。定時総会による必要はありません。

① 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)。
② 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容及びその総額。
③ 株式を取得することができる期間。この期間は1年を超えてはいけません。

次に会社(取締役会設置会社では取締役会)は、株式を取得しようとする都度、次の事項を定めなければなりません。株式の取得の条件は、決定ごとに均等に定めなければなりません(会157)。

① 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)。
② 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
③株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総数。
④ 株式の譲渡の申込みの期日。

以上の事項を決定したときは、会社は株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、決定事項を通知します(会158‐Ⅰ)。公開会社では公告で通知に代えることができます(同条‐Ⅱ)。

通知を受けた株主は、その有する株式の譲渡しの申込みができ、会社はそれを譲受けるが、申込総数が取得総数を超えたときは、按分で取得します(会159)。

◆特定の株主からの取得
会社が株主との合意による有償取得を決定するときに、株主総会の特別決議(会309‐Ⅱ‐②)で、取得事項の通知を特定の株主に対して行う旨定めることができます(会160‐Ⅰ)。会社からの取得事項の決定の通知が、特定の株主になされることになります(会160‐Ⅴ)。

この場合には、特定の株主のみが譲渡の申込みができるので株主平等原則に反します。そこで次の規制があります。

① 上記の株主総会の決議では、当該特定の株主は議決権を行使することができません。ただし特定の株主以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りではありません(会160‐Ⅳ)。

②会社がこの決定をしようとするときは、法務省令で定める時までに(規則28条)、他の株主(取得する種類の種類株主)に対し、特定の株主に自己をも加えたものを当該株主総会の議案とすることを請求できる旨、通知しなければなりません(同条‐Ⅱ、Ⅲ)。

もっとも、特定の株主から取得する株式が市場価格のあります株式である場合において、当該株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の額が当該株式一株の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えないとき(規則30条参照)は通知の必要はありません。

また定款で自己を買主に加える旨の請求ができる通知をすることを排除することができます(会164‐Ⅰ)。

③また、特定の株主からの取得でも、株主の相続人その他の一般承継人から株式を取得する場合にも、他の株主に対して通知をして、自己も加えるように請求する機会を与える必要はありません。会社は相続人等からのみ自己株式を取得できます。

ただし次の場合にはやはり通知が必要です(会162)。
(a) 株式会社が公開会社である場合。
(b) 当該相続人その他の一般承継人が株主総会(種類株主総会)において議決権を行使した場合。


●子会社からの株式の取得
上記の「特定の株主」が子会社である場合、すなわち会社がその子会社の有する当該会社の株式(親会社の株式)を取得する場合には、株式の取得に関する事項を株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で決めて取得することができます。具体的な取得に関する事項の決定や通知は必要がありません(会163)。

子会社は親会社株式を取得した時は、相当な時期に処分しなければなりません(会135)。そこで親会社が子会社からの自己株式の取得を容易にして、子会社が親会社株式を処分しやすくしているわけです。

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