募集株式無効の訴え

会社法講義36日目

募集株式無効の訴え
新株発行、自己株式の処分の無効は、訴えをもってのみ主張することができます(会828)。社会秩序の安定の観点から無効の主張が制限されています。

訴えを提起できる者は、株主(新・旧株主)、取締役、監査役、執行役、清算人、委員会設置会社では執行人です(会828‐Ⅱ)。被告は会社です(会834‐② ③)。

提訴期間は、新株発行・自己株式処分の効力が生じた日から6箇月以内(公開会社以外の場合は1年以内 会828‐Ⅰ‐② ③)となっています。

その他の専属管轄、担保提供、弁論の併合等については、他の「会社の組織に関する訴え(会835~837)」と同様です。

●どのような場合が無効原因となるかについて会社法は定めていません。しかし募集株式発行の効力発生前の差止請求と異なり、効力発生後の無効は多数の新株主に損害を与え、株式取引の安全を害するところから限定的に解されています。

◆取締役会の決議を欠く新株発行(最S36.3.31)、株主総会の特別決議を欠く第三者に対する有利発行(最S46.7.16)を判例はいずれも無効原因とならないとします。株式取引の安全を重視しているわけです。


◆新株発行事項の通知・公告を欠く場合は株主不知の間に新株発行がなされ株主の差止の機会を奪うことになるから無効原因となります。しかし差止める理由ががない場合には無効原因とはなりません(最H9.1.28)。

◆新株発行差止の仮処分を無視してなされた新株発行は無効原因となります(最H5.12.16)。これを有効としたのでは仮処分の意味がなくなるからです。

◆発行可能株式総数を超えた新株発行や定款に定めのない種類株式の発行は無効原因となります(通説)。

●新株発行無効判決の効力
新株発行、自己株式の処分の無効判決の効力は、訴訟当事者以外の第三者に対しても効力を生ずます(対世効 会838)。

判決には遡及効がなく、新株発行・自己株式処分が将来に向かってその効力を失うにすぎません(会838)。それまでになされた剰余金の配当、議決権の行使、株式譲渡などは無効の判決によっても影響はうけません。

●新株発行の無効判決が確定したときは、会社は確定時の当該株主に対し払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付時における価額に相当する金銭を支払わなければなりません(会840‐Ⅰ)。

金額が、判決確定時における会社財産の状況に照らして著しく不相当であるときは、裁判所は、会社又は株主の申立てにより当該金額の増減を命ずることができます(同条‐Ⅱ)。

この場合において、会社が株券発行会社であるときは、会社は株主に対し金銭の支払いと引換えに無効判決により効力を失った株券を返還することを請求することができます(同項)。

なお、効力を失った新株式の質権は株主が受ける金銭について存在し、登録質権者は会社からその金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができます(同条‐Ⅳ、Ⅴ)。

●自己株式の処分無効判決の効力
自己株式の処分の無効判決が確定したときも同様の処理によります(会841)。


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